医療法人実風会 新生病院

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気分障害について

はじめに


 気分障害の症状にはうつ状態と躁状態があります。気分が落ち込む、意欲がなくなる状態(うつ状態)あるいは気分が高ぶり、意欲が過剰になる状態(躁状態)となり、それが通常の生活に支障をきたすほど、悪化し、持続する精神障害です。うつ状態や躁状態が持続、悪化することにより、これまで普通に行ってきた日常生活動作や対人関係ができなくなり、社会生活が困難となります。そして重症の場合は、考え方に偏りや歪みを生じ、極端な場合、考えの異常は妄想になり、自殺の危険が高くなります。
 
 気分障害は主にうつ病性障害双極性障害に分けられます。

うつ病性障害

抑うつ気分

気分が重く、晴れない気分がつよく、以前興味があったことに関心が無くなり、感情がなくなったような空虚さがあります。また午前中にひどく、午後から夕方にかけて改善してくる、気分の日内変動があります。

興味や喜びの喪失

うつ病の患者さんは、程度の差はあるものの、これまで楽しんできた趣味や活動にあまり興味を持てなくなる。何をやってもおもしろくなく、自分の世界に閉じこもるようになります。

食欲の減退または増加

食欲がなくなり、食べないと行けないから無理して食べる、砂を噛むような感じであると述べられる方もいます。多くの方は体重が減少します。

睡眠障害

睡眠障害は寝付きが悪く、夜中に目がさめ、早く目が覚めるため十分な睡眠がとれなくなります。起きるたびに常に不安で心配になっていることを考えていることが多くなります。ここまでは軽症~中等症で、周囲の人は本人が言わなければ気付かない事も多いのです。ただし眠ることが出来ずに疲れている様子は気付くことができるのでその時に受診できれば重症化を防ぐ可能性があります。

精神活動や体の動きの低下あるいは不安・焦燥感の悪化

中等症以上になると体の動きや口数が少なくなる、声も小さくなる変化がみられます。このようになれば周囲の人は変化に気付くようになります。活動が落ちる一方で、何をしていても気持ちが落着かない、立ったり、座ったり、うろうろするなど焦燥感がつよくなる事があります。

疲れやすさ・気力の減退

ほとんど身体をうごかしていないのに、ひどく疲れ、身体が重く感じられるようになります。また日常生活動作である、入浴、更衣、洗顔などもできなくなるため、外見の変化が目立つようになります。めがねが皮脂で汚れ、衣服も汚れているなど、整容に気がまわらない様子はやはり病状の悪化を示しています。

思考力や集中力の低下

通常ではすぐに判断できることも迷ってしまい、決められなくなります。

罪悪感

重症になると不安が解消できず、増え続ける結果、考え方の歪み、偏りが生じます。周囲の人がいろいろ説得しても、悪いほうにしか考えられず、「自分は生きる価値のない人間である。」などと妄想的な状態になります。また自らの身体状態についての過度な心配や金銭・先行きの経済的な問題についても心配が強くなり、言動や行動がおかしくなります。典型例では「便や尿がでない。」と険しい表情で訴える、受診や検査を繰り返す、また「お金がない、税金が払えない。払えなかったら警察に捕まる。」などと妄想的な言動がみられることがあります。

死への思い

うつ病が重くなると、気持ちが沈んで辛くてたまらなくなり、死んだほうがましだと考えるようになります。死への思いが頭から離れず自傷行為を行うなど短絡的な判断をしてしまうこともあります。

うつ病:年齢層による違い(若者のうつ病 と 中高年のうつ病)


 近年うつ病に対する社会の取り組みは重要視されている一方、本人や家族にとってその病像が理解しにくい、あるいは情報の混乱があるようにみえます。その中でうつ状態の本人が若者なのか中高年なのかに分けて考えると理解がしやすくなります。
 

 若者のうつ病

 
 若者は人生経験が浅く、人生での様々な困難に対しての対処ノウハウが少なく、ストレスを受けやすいと言えます。就職などで社会に出て、仕事中、上司などとの人間関係で強いストレスを受けると不安感が強くなり、精神的に動揺してしまいます。精神的に動揺の程度が深く、それが長く続くとやがて、不眠、憂うつ気分、意欲低下が強く、うつ状態となります。
 しかし「仕事や上司の対応に慣れる。」など直接の心的ストレスが去ると精神症状は緩和されることがあります。若者のうつ病ではその本態は、心因性うつ病、適応障害であることがあります。このような場合、まず薬物療法で十分な睡眠、憂うつ気分、不安の解消、食欲の回復などを改善させることが重要ですが、さらに心理カウンセリング、認知行動療法などの治療手法が有効な場合があります。認知行動療法は、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り 戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法です。(日本認知療法学会ホームページ:うつ病の認知療法・認知行動療法より)
 うつ病によってマイナス面ばかりに焦点が当たっている歪んだ自己像、自己評価を正当なものに導き、気持ち、情緒を安定させ、さらに偏った考えから起きてしまう行動をコントロールしていきます。
 

 中高年のうつ病

 
 中高年の方は、就労、結婚、死別など、これまでの人生での強い精神的なストレスを経験し、その対応方法についてもたくさんの引き出しを持っているはずです。しかし中高年でのうつ病は、今までも経験してきたような些細な問題がきっかけとなります。心が安定している時では、短期間で解消できた不安がいつまでもつきまとい、心を占めます。寝ても覚めても一日中同じ不安に苦しめられて行くうちに、不眠、憂うつ気分、意欲低下が出現します。
 たとえ、不安のきっかけになった問題が解決しても、不安が解消されないばかりか精神症状が改善せず、悪化することもしばしばです。孤立し、不安な考えに常に向き合っていると現状を正しく認識できず、冷静な判断に欠けてきます。次第に考えの歪みが誤った考えを生み、強固な思い込み「妄想」となります。うつ病での妄想は微小妄想といい、罪業(ざいごう)妄想、貧困妄想、心気妄想などがあります。
 罪業妄想では自己否定や無価値感を前面に訴える、「生きているだけで世の中の迷惑である。」といった考えが強くなります。貧困妄想では、些細な金銭の出費などをきっかけに「明日からの生活費がなくなる。」などと金銭的な不安が過度になる考えが強くなります。そして心気妄想ではちょっとした身体の不調をきっかけに、「自分は思い病気にかかっている。」と確信してしまいます。口腔内の不快感、痛みや排便や排尿に関する訴えやこだわりも多くみられます。
 このように中高年、高齢者でみられる重症のうつ病では、妄想などの精神症状を伴い、食事ができず、身体状態の悪化も目立ち、自殺の危険が高い状態です。最近の治療薬は副作用の少ない優れたものが多いですが、高齢者ではその反応に乏しく、且つ副作用が出やすいこともしばしばです。また拒食のため、輸液・胃管栄養を行えば長期臥床から肺炎、尿路感染症、褥瘡を併発しやすいため、内服薬による治療効果を待てない重症の状態であれば精神科電気けいれん療法を行う場合もあります

双極性障害


 うつ病については様々な書籍など情報が過多といって良いほどあります。一方で躁状態については極めて少なく、世の中の認知度が低いといえます。しかしながら適切な治療を受けなければ本人のみならずご家族が本当に困った状態になります。
 まず本人にとって躁状態が「病気になっている。」、あるいは「調子が悪い。」という認識が持ちにくいことがあり、むしろこれまでの人生の中で最も良い状態ととらえてしまうことがしばしばで、つまり病識を持ちにくいことがあります。
 躁状態が悪化していくと、他人のアドバイスを素直にきかなくなり、医療機関への受診などの支援をしてあげられないことがあります。それどころか本人が遠慮なくずけずけと高圧的な言動を繰り返したりすることで長年の友人や同僚が立ち去っていくだけでなく、家族までが本人と関わることが困難になることがあります。周囲の受診の説得が実らず、けんかや暴力行為、迷惑行為で警察に保護される、浪費の結果、経済的に破綻する、アルコールの過剰摂取後、自殺未遂するなど最悪の状態に至ってから初めて精神科での治療が始まることも少なくありません。

躁症状について


 少なくとも(1)を含む、4 つ以上(1が怒りっぽいだけの場合は5つ以上)の症状が、1週間以上続く場合を指します。
 
1)気分が良すぎたり、ハイになったり、興奮したり、調子が上がりすぎたり、怒りっぽくなったりして、他人から普段のあなたとは違うと思われてしまう
2)自分が偉くなったように感じる
3)いつもよりおしゃべりになる
4)色々な考えが次々と頭に浮かぶ
5)注意がそれやすい
6)活動性が高まり、ひどくなると全くじっとしていられなくなる
7)後で困ったことになるのが明らかなのに、つい自分が楽しいこと(買い物への浪費、性的無分別、ばかげた商売への投資など)に熱中してしまう
 
感情: 気分の高まり、刺激されやすさ、いらいら怒りっぽさ   
意欲: 意欲過剰、注意散漫、抑制困難、興奮
行為:多弁、脱線、浪費、過量飲酒、対人トラブル、自己主張が強くなる(他の人との調和を考えない)(正論を他の人の意見を聞かず押しつける)
思考: 次々とめまぐるしく考えが浮かぶ 誇大的、楽観的
睡眠:不眠
その他:食欲亢進、性欲亢進

双極性障害の種類


 
①双極Ⅰ型障害(いわゆる典型的な躁うつ病)
 
 躁状態がはっきりしていて症状が重いのが特徴です。典型的な躁状態とうつ状態があらわれ、躁状態のときは、本人が「病的に活動性が増している。」という自覚がありません。本人の高圧的で無遠慮な振る舞いが長年の友人や会社の同僚、職場、家族を失うことにつながります。また浪費により、こつこつ貯めてきた大切な財産を失われます。また不眠や興奮を気味な気持ちを抑えようとして使用するアルコールが乱用につながり、アルコール依存症や躁症状の悪化に拍車をかけます。
 
①双極Ⅱ型障害
 
 うつ状態が主体だが、軽い躁状態がみられます。双極Ⅰ型障害のように際だった躁ではないので、自分や周囲の人も症状に気づきにくいのです。持続的に高揚した開放的な気分が、「少なくとも4日以上続く」というのが、ひとつの基準になっています。

双極性障害の診断や治療の困難さ

 

1.躁状態の時に本人が治療動機を持ちにくい

 うつ状態の時は自らの状態が悪化しているという自覚、病識があるので受診につながりやすいですが、躁の時は「自分は絶好調。」ととらえてしまうことが多く、受診にならないことも多いと考えられます。

2.過去の躁状態に気づきにくい

 うつ状態の時に医療機関に受診しても、これまでにあった躁状態の時のエピソードや様子について自覚がなければ、担当医に説明することもありませんので「躁病エピソード」が見過ごされてしまうことがあります。

3.治療を受ける本人が「自分の気分が安定している良い状態」について理解がない

 治療目標の設定を誤り、つまり良い状態=躁状態と本人が考えてしまいがちなため、十分な医師の説明や疾病教育がなければ、治療がうまくいかないことがしばしばです。良い状態とは自分にとって家族や周囲の人との人間関係が維持できる、やり過ぎず無理のないペースで仕事などの活動を維持できることです。うつ状態は苦しい、躁の状態が最も良い状態と考えてしまうと、著しい躁状態となり入院を余儀なくされてしまいます。

 
 このように躁状態が明らかで入院となった方は疾病教育が非常に重要であるといえます。

双極性障害における薬物療法


 双極性障害では、躁、うつの気分の波を小さくし、安定させる目的で気分安定薬と言われる薬を使います。炭酸リチウムが代表ですが、元々てんかんに使用する抗てんかん薬を炭酸リチウムと同様に使います。バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどがあります。また躁状態が強い時、気持ちが穏やかにならずイライラが激しい時に抗精神病薬というお薬を使うことがあります。躁の興奮が改善されば、引き続き起こる可能性のあるうつ状態に注意を払う必要があります。
 

 最後に

 さらに詳しくお知りになりたい方は、日本うつ病学会では「双極性障害(躁うつ病)と、つきあうために」というテキストをホームページで公開しています。詳細がわかりやすく解説されておりますのでおすすめさせていただきます。また、最も大切なことは、信頼されている担当医の先生から十分な説明を受けることであると考えます。